学校だより第12号

3月9日(水)。「学校だより」第12号を発行しました。

「学校だより」第12号からの抜粋です。


子供の成長を見守り,自己実現に迫る
                                校長 畑川 慶行

 今回は,ある中学生の一例を通して,子供がどう成長していくかを考えてみたいと思います。この話は,ある中学校での出来事で,子供自ら,自分の進む道を探り当てていった話です。
 M中○年のN少年は,学業成績があまり振るわない少年でした。彼が友達に誇れるものは何も持ち合わせていませんでしたが,人一倍目立ちたがりの性格でした。彼は,学校にパーマをかけて登校し,その上脱色までしたのです。
 もちろん,担任の先生から注意を受けたのですが,意にも介さず毎日元気に登校するのでした。なぜなら,全校生徒が自分に注目し,「N君はかっこいいなあ。」と言っているように思い込んでいたからです。廊下を歩いていても,勉強中でも髪型が気になり,廊下の鏡の前では必ず立ち止まり,ぼんやり映る窓ガラスにさえ顔を近付け,くしを入れました。それこそ彼にとって髪型は,自分で作った友達に誇れる唯一の勲章だったのです。
 ところがなんとしたことか,1学期の終わり近くになって,毎晩髪の毛がパラパラと抜け出し,遠くからでも不自然さが目立つような気がしてきました。彼は,今までとは逆にどうしたら自分が目立たなくなるかを考え,残り少なくなった髪の毛を黒く染め替えましたが,とうとう,後少しで夏休みというとき,彼の悩みは,頂点に達していました。そして,いつも自分の命令に従ってくれるA君の家に行き,自分の悩みを打ち明けることにしたのです。
 いつも小さく見えるA君に,「そんなに目立たないよ。学校だけは休むなよ。」と言われ,急にA君が大きく見えてきたのです。しかし,夏休みに入っても髪の毛は抜け続け,8月に入る頃は,ほとんど抜け落ちてしまいました。彼は夏休みだというのにスキー帽を深々とかぶり,自転車に乗りA君を訪ねたのでした。
 話を聞いたA君は,「今までかっこいいと思ってたのかよ。誰もかっこいいなんて言ってねえよ。」と,N君にとっては,信じられないことを言いました。「他の人のことなんか気にしてねえよ。自分のことで皆精一杯なんだ。気にすんな。ところで,お前卒業したらどうするんだ。」と聞かれ,髪の毛のことで相談に来たのに,卒業後のことなど3年になって考えればよいと思っていただけに,N君にはショックでした。どう答えたらよいか迷ったが,車が好きなので,「車に関係のある仕事をしてみたい。」と,小さな声で答えたのです。A君は「かっこいい。やんな,やんな。」と喜んでくれました。それからは,車の雑誌を見たり,図鑑を見たりしているうちに楽しくなり,「車の仕事,かっこいい。」というこの一言が彼の支えになりました。また,夏休みの終わる頃には,なんと,髪の毛が生えてきたのです。
 そして,2学期からの学校での生活態度も,「かっこいい」の意味も変わり,車のレースで有名な工業高校の自動車部のキャプテンとして,活躍したのだそうです。
 なぜこの中学生の話をしたかと言うと,これから先につながる中学校生活を知ってもらうことと,髪の毛を赤くすることでしか自己表現の手段を持てなかったこの少年の哀れさも知ってほしかったのです。
 この少年は,どんなにか自分を認めてほしかったことでしょう。誕生からの十数年,彼は,どんな育ち方をしたのでしょうか。「三つ子の魂百まで」という諺がありますが,幼い頃からほめて,自信を持たせることが,どんなに大切なことか。人は,ほめられて自分の「よさ」を自覚し,自分の可能性を見出すことが多いものです。そのことで,生きる目標も,自分なりに,自然に持てるようになるでしょうし,自己教育力が身に付いていくものと思われます。
 一人の子供が自分のよさや可能性に気づき,自分の進むべき方向を探り当てることが,いかに大変なことか分かってほしいと思います。自己実現させるには,学校・家庭・地域社会がどう支援してやればよいか,具体的に考えさせられる話です。
 子供の要求に任せっぱなし,子供が判断する場もないほどの干渉,少なすぎる体験など,家庭でも学校でも地域社会でも反省すべき点が多いはずです。子供の自己実現を果たさせるために,子供に接する大人一人一人が,どうすればよいか考えていく必要があるのではないでしょうか。
 22年度の1年間の厚いご支援ご協力に深く感謝しつつ,来年度は「タフ」を合い言葉に子供たちを共育していきましょう。



2011/03/09 13:20 | この記事のURL